無知蒙昧なセンテンス

その辺の社会人が色々なものの言語化を試みる場です。

社会勉強をしてきた

先日マルチに加担しかけた。ギリギリで回避したがあと一歩でずぶずぶのマルチをやるところだった。マジで怖い。社会人シビれる。山椒多めにした汁なし担々麵くらいシビれる。いよいよ人生も本番を迎えた感じがする。


きっかけはネットで知り合った男性(Aとする)と仲良くなったことだった。社会人になってからリモートワークばっかだし全然交友関係広がらんなーつまらんなーと思い、せっかくなら会社の外で色んな人と話してみるかというのがきっかけだった。今まで自分が生きてきた環境とは全然違う世界にいる人と会話したらなんか楽しい...カモ?みたいなアレだ。調査兵団に入って壁外調査をしに行くとしたらこんな感じかな...壁の外を見てみたいってこんな気持ちかな...?みたいなことすら思っていた。お恥ずかしい。
もともとAとはお互いにゲームや漫画が好きというところで知り合い、会って飲むことに。この時は普通に趣味の話をしてそこそこ盛り上がった。途中でAが「脱サラして経営してるんだ/経営者になったら時間がすごいできたんだ」みたいなことを言ってて㍂経営者ええやんけってちょっと思った記憶がある。帰り際に「飲み会を主催してるんだけど、良かったら来る?結構オタクな人も多いからなじめると思うよ」と言われ、色んな人と話したいモチベが高かったので二つ返事で行くことにした。

その飲み会は平日の夜に開催されていた。恐る恐る行ってみると10-15人くらい人がいて、比較的穏やかに飲んでいた。
ここでも初対面の人に臆せず趣味の話をした。「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンって、感情が動くときキャラクターの目が震える表現を多用してますよね。んで、本当に強く動いたときは顔全体が大きく動く。この感情の強さの表し方、めっちゃ巧いっすよね~」なんて話を意気揚々とした。この話をする前から「なんかアニメ好きそうっすねww」って言われたのは解せなかったが。どっちかというとアニメより漫画の方が好きだが??と思ったが初対面だったので「えへっえへへっ」つって流した。
趣味以外の話もちょっとしたのだが、Aよりは年下でおれより年上の男性と結構話した。聞くと、彼もまた普通に働いていたがと途中でフリーランスになり、今は経営者を目指しているという。ここでも㍂経営者目指すやつもおるんやなあくらいには思ったが、趣味の話が大半だったのであまり気にはしなかった。ただ、会の後半になってAに「今日は飲み会だけど、土日はちょっと真面目な朝活とかもしてるんだよ。良かったら来てみる?」などと言われ、前回と今回で知らん人とたくさん盛り上がって気分が良くなっていたおれはここでも二つ返事でOKをした。内容も大して聞かずに午前中にセミナーを受ける、くらいの情報しかなかった気がする。あまりにも軽率。

早速その週の土日に朝活があった。行ってみると、将来やりたいことを書きだしたり収入と支出をちゃんと管理してますか?みたいなお金な話とかをしていたりで、所謂自己啓発セミナーの体をなしていた。このセミナーAと二人で行ったのだが、ここでAは「ぼくはこれを周回してるんだよね~」などと言っていて、あ?周回??そんな何度も受けたくなるか?内容そんな複雑ちゃうぞ?むしろ同じこと割と繰り返してるし、テンポ遅い方じゃないか??、などとそこそこ疑問に思ったが、まあええか、社会には色んな人がおるわ、ということにして飲み込んだ。
このセミナーは複数回あって毎週土日の朝にやっていたんだが、後半の回で働き方にも色々あるんだぜ!みたいな話をしていた。色々あると言いつつ「経営者は自分の時間も増えるし、お金も今までより増えるよ(意訳)」などと明らかに経営者の道を推していたのだが、Aが経営者だったり飲み会の場で経営者を目指している人を見たりしていたのでそこまで違和感を持つこともなく、むしろ経営者っていいかもしれん、とさえ思っていた。
ただこのあたりで、もしかしたらAって怪しい人なのか...?みたいな気持ちが芽生え始めた。だって冷静にあのセミナー周回するのは変だし、何かと経営者の道を勧めてくる感じもなんとも香ばしかった。あと、セミナーにも講師として経営者の人が出てきたのだが、全員あまりに似たような事業をやっているのも違和感があった。何度かAに「なんでみんな同じような事業やってるんすか?」と聞こうかと思ったが、この時点でAとはそこそこ仲良くなっていたので溝ができるような質問はしにくかったのもあり、聞けなかった。聞かない代わりに、一応の防衛ラインとして ”多額の金がかかるor他の人を勧誘しろ” のどちらかが来たらAとは縁を切ることに決めた。ここでこれを思えたの、振り返ってみるとマジで偉すぎる。あまりにもナイスプレイ。おれがテニス部出身だったら今頃「ナイッッショォォーーイ!!!」と叫んでいたことであろう。ちなみに卓球部だ。

セミナーの受講期間中、Aに「君と結構境遇が似ている経営者の知り合いがいるんだけど、会って話してみる?」と言われた。ここまでの流れを通じて、怪しいと思いつつ経営者ってなんかええなみたいな気持ちになっていたので会うことにした。「ぼくの兄弟子なんだよねー、共通の師匠がいてさー」と言われたときはその文化何ぞ??と思ったがいちいち聞くモチベもなく、いったん片隅に置いといた(このいったん隅に置いてしまう行為、振り返るとかなり洗脳されやすくなる行為だなと思った)。
その兄弟子(Bとする)の経営者と会ったのはセミナーを一通り受け終わった後だった。平日の仕事終わりにAと二人で待ち合わせ、少し遅れてBが登場した。BはAと同い年くらいで、Aと同様脱サラして経営をしていると言っていた。この時はBのいきさつを軽く聞き、どのように経営者に至ったかを聞いて終わった。話を聞くと確かに経営者を目指すまでの境遇は自分に似ていたので、本当に経営者になれるのかもしれない...!という気持ちが強まり、すごくワクワクしたのを覚えている。Bと解散した後、Aと二人で軽く雑談をした。その中で「ぼくも元々会社員だったけど、そこから経営者になるまでは大変なこととかしんどいことがたくさんあった。でも今はめっちゃ楽しいし、良かったと思ってるよ。」と言われ、そりゃ大変なこともあるよなと思ったがそれでもワクワクしていた。帰り際、Aに「今度またBさんに会いに行こう。もうちょっと色々と話し聞きに行こう!」と言われ、前のめりでOKした。

何週間か経って、再びAと二人で待ち合わせてBに会いに行った。この期間にも何回かAと会う機会はあったのだが、あまり印象的なこともなかったので割愛する。この頃にはすっかり経営者目指せるなら目指そうという心持ちだったので、具体的にどういうことをすればいいのかを聞くつもりだった。Aと待ち合わせたとき、「もし君にモチベがあるなら、今日はBに学ばせてくださいとお願いしてみようか」と言われた。どうすれば良いか聞きたかったので、ちょうどいいと思って「お願いしてみます...!」と言った。
Bに会い、割と序盤で「もしよければ、これからBさんのもとで学ばせてください!」と言った。Bに「なんで経営者目指したいの?」と聞かれたので、自分の時間が持てそうなこと、組織労働は何となく搾取されているような気がすること、色んな景色が見れそうなこと、漠然とワクワクすること、を打ち明けた。すると「今君が話してくれたことは、経営者になれば全部実現すると思う。だけど、そこまでの道のりは決して楽じゃないけど、大丈夫?」みたいな確認をされた。自分で言ってしまったのもあり、もう飛び込んじゃえ!後は野となれ山となれだ!みたいな気持ちだったので「大丈夫です!」と即答した。すると、Bは具体的な道のりの話をし始めた。土日にセミナーがたくさんあり基本的に全参加する必要があること、自己投資として毎月十数万払うこと(⚠)、弱気になったら周りの友人や親でなくBに相談することなど、基本的な方針を伝えられた。今見るとマジでただ洗脳しやすい環境を作りに来ているだけなのだが、飛び込む決意をしてしまったので真面目な顔で聞いていた.........が、真面目に聞いている場合ではないのである。おいおれよ、出てきてるじゃねえか。多額の金の防衛ラインが突破されてるじゃねえか。どうしたんたんだよ先日のナイスプレーはよ.........そう、このタイミングでは十数万の自己投資に違和感を抱けなかったのである。本当に怖い。理由として、十数万を特定の人やコミュニティに貢げという言い方ではなく、「君の健康と将来のため。あとは経営者になったときにお金を管理する能力を自分の収支を使って鍛えるため。」という言い方をされたというのがある。そして、自己投資の具体的な使い方は伝えられなかったのと、「いきなり毎月十数万を捻出するのは無理だろうから、まずはそれだけのお金を用意できるように収支を見直すところからサポートするよ。お金が用意できるようになったら自己投資を始めよう。」と言われ、とりあえず今は考えなくていいかと思ってしまったのである。こうしてナイスプレーはかき消されてしまった。完全に一枚上だった。ハウスの中央付近に複数のストーンを寄せて俄然有利だったのに、相手の一投ですべてはじかれてしまうような感じだった。特別好きでもないのに突然カーリングで例えてしまった。

こうしてBの弟子となり、本格的にセミナーに参加することになった。これは先日の朝活とは別で、経営者を目指そうと思い特定の師匠に師事している人しか参加できないセミナーだった。なんとセミナーは土日の6-7割ほどあり、少なくとも2時間、多い日は朝から夕方までみっちりと入っていた。セミナーの種類によって参加人数が違うのだが、少ない会でも100人、多い会では500人もいた。驚きの人数である。経営者を目指している人はこんなに湧いてんのか!?いやおれもまんまと目指しているが...マジかよ。

最初の週のセミナーを受けた。初参加ということもあり、右も左も分からないのでしっかりと聞いていた。その結果、マジでテンポ遅いな...内容もこの前Bが言ってたこととほぼ同じだし、マインドの話ばっかりやんけ…少し考えれば分かるやん...と、そこそこ不満を抱いた。土日合わせて10時間弱あったのだが、内容は冗長&繰り返しばかりで、正直1時間で十分な感じだった。1回あたりの金額が2000円くらいで、土日でも合計で6000円とかだったので何とか堪えられたが、もっと高かったらそれはもう怒髪が天を衝くところだった。一通り受け終わってAにそういう旨を述べてみると「まあ、全員に内容を分かってもらう必要があるからそういう面もあるよねえ。(中略)君はある程度マインドが備わっているんだよ!」みたいな何とも胡散臭い感じで流されてしまった。おれは褒められるといい気分になるので軽率に流された。
二日間のセミナーの最後の方で経営者を目指す具体的な方法についての説明があった。端的に言えば、まずは経営したときに協力してくれる信頼のできるチームを作ろう!そのためには仲間を集めよう!みたいなことだった。ん?具体的つってもいまいちわからん。仲間ってこのセミナーに参加してる人同士で作るんか?と思いながら聞いていたが、「1から誘う」「すでに仲のいい人を勧誘」だの、どうも外部から連れてくるようなニュアンスで話していた。ちょっとよく分からなかったのでここはAや師匠になったBに別途質問してみた。すると、「ここにいる人はみんなリーダーを目指している人だから、この中でチームは作らないよ。君が別の人を誘って作るんだ。」と言われた。あれ、セミナーの中では仲間になったらコミュニティに入ってもらうって言ってたよな...と思い、「チームを作るために別の人を誘ってコミュニティに入ってもらったら、その人たちもまたリーダーを目指すんですか?」と聞いてみた。そしたら「うん、そういうこと!」と言われ、ますます混乱した。みんなが経営者を目指したら誰もチームは入れないやんけ、どういうことやねん。Bには聞きにくかったのでこの辺りをAに聞いてみると「君が事業を立ち上げるときに誘った人が協力してくれるイメージかな」と言われ、聞けば聞くほど頭が???だった。おれの中の重ちーが「理解不能理解不能理解不能理解不能...!!」と叫んでいた。
二日間のセミナ-は、やけに同じこと繰り返してくる割に肝心のチームを作る部分はふわふわしとるなという感想だった。

その翌日の月曜、セミナーの内容の補足説明をしてくれるということでAに会いに行った。
Aの説明をまとめると、次のような感じだった。事業を始めるにはまず仲間を集める必要がある。8人集めるとコミュニティ内で認められて具体的に事業を始めるという話になる。事業はうちのコミュニティが得意としている○○についての事業を立ち上げてもらう。そのためにも、まずは仲間を集めよう。具体的には、合コン・街コン・アプリで人と出会う、もしくは周りの友人や知り合いの紹介で経営者に興味のある人を探す。そしてちゃんと仲間になりそうな資格があると判断できれば、師匠に会ってもらい本人自らお願いをしてもらう。そうすれば仲間GET。ただ、仲良くなるのと仲間になる資格があるのは違う(ここで突然ワンピ―スを使った例え話が入るが、割愛)。仲間の資格があるかを判断するために、ぼくが主催している飲み会に来てもらって仲を深めたり、そこから朝活に誘ったりしてどんな価値観を持っているかを見極める。そうやって段階的に探っていって、最終的に仲間になる。
これを聞いている途中からそれってマルチ......ってこと!?となり、今までの疑いがどんどん増幅していった。逆に言うと、ここまで来て初めて我に返ったのである。今まで疑わしい箇所はスルー出来ていたが、一つ決定的にスルー出来なかったのがこの ”勧誘” である。積極的に集めないといけないと思ったとき、はじめて強い拒絶感が芽生えた。直感的に、こんなことしたら絶対今までの人間関係にヒビが入る...これは周りの友達に言えないわ......今までの交友関係を犠牲にしてまで目指したくない...!と強く思った。ここで一気に目が覚めた。”他の人を勧誘しろ” の防衛ラインはかろうじて守り切った。残りの説明はなるべく態度が変わらないように相槌を打ち、「仲間集めるために動き出します!」と言って解散した。心の中では抜けることを決意した瞬間でもあった。この時の全細胞が拒絶している感覚は未だに鮮明に覚えている。
あと、Aの話を聞いて変だな...と思っていたところが一気につながった。Aが朝活を周回していたのは仲間候補を何回も朝活に連れて行っていたからだろうし、その朝活の講師がみんな似たような事業をやっているのは主催がそのコミュニティだからだ。「オタクがたくさんいるよ」と誘われて行った飲み会も仲間集めの中継点だったわけだ。

帰宅し、冷静になってネットでいろいろと調べていると被害者の記事がたくさん出てきた。時間とお金を搾取され精神は疲弊、、、みたいな記事がたくさんあったんだが、そこに書かれていた手法がマジでおれが喰らった手法と同じだったので、ますます目が覚め、恐ろしくなった。
それから数日したタイミングでAとBに「クソお世話になりました。」みたいな連絡をし、即ブロックした。今のところ何もないので、おそらく抜けられたんだと思っている。週末のセミナーは、2か月目以降毎回のセミナー代とは別に謎の基本料金として11,000円を毎月取られることになっていたので、初週で抜けられて本当にほっとしている。それに加えて十数万の自己投資が入ってきたら…想像するだけでも恐ろしい。ネットの記事によればその十数万は師匠の事業に対して払うことになっているらしく、ただの搾取じゃねえかと思った。そりゃ最初のうちは具体的な自己投資の内容を伏せるわけだ。
それでも飲み会や朝活で払ったお金を含めると2万ほど飛んでしまった。あまりにも軽率な出費である。今後2万円分はネタとして笑い話にしていかないと元が取れない。


ただ、この一連の流れを通じてマルチへの理解が結構深まったのはギリギリ収穫だなと思っている。そもそもマルチ自体は違法ではないことを初めて知った。お恥ずかしい。
マルチは商品・物を媒介に会員を増やすので会員増加とお金の動きが直接結びついているのに対し、今回の件は ”経営者になりたい” という意志を媒介にして会員が増えて入った後のセミナー代や自己投資代を介してお金が動くようになっているのでワンクッションある。より分かりにくい構造になっていて、マルチ亜種と言った感じがする。そして、単純な感想としてこの組織のシステムは非常に完成度が高いと感じた。ワンクッション挟むことでマルチっぽさが薄れるのもそうだが、とにかく勧誘の過程が丁寧なのも完成度の高さが伺える。普通の飲み会→朝活(この間もただ遊ぶだけのイベントとかもあった)→師匠にお願い→入会、と段階を踏んでいるので、いきなり飛躍して「え??」となりにくい(それでも違和感はあるが、最初普通に仲良くなって最低限の信頼関係を作っているので指摘しにくいのが巧い)。そして師匠に自分からお願いするというやり方も本当に上手である。自分から切り出すことで、今まで感じていた違和感が覚悟とドキドキ感で上塗りされてしまうのだ。実際、「お願いします!」と言った日のワクワクドキドキした感覚はプラスの感情としてとても強かった。ここが「私たちの仲間になってくれますか?」だったらかなりシステムとしての完成度は落ちるだろう。AもBも経営者のメリットを語りつつ、「しんどいこともたくさんある」「たくさん失敗する」といったマイナスの情報もちゃんと混ぜてくるのでリアリティが損なわれないのも上手だ。短期間とはいえ洗脳されていた身としては、これだけシステムが上手ならまあなくならないだろうなと思う。
また、多分嘘は言ってないというのもポイントだと思った。セミナーでの話やAやBの話を踏まえると、仲間を8人増やしたら事業を立ち上げるというのは恐らく本当なんじゃないかという気がする。このシステムだと、単純計算で1事業に対して8人が自己投資をすることになり、人数比的に十分経済が回っていくんじゃなかろうか。実際は共同で事業を立ち上げたり自己投資の払い方がもう少し複雑だったりするのかもしれないが、多分経済は回るんだと思う。嘘を言ってないから言葉を重くできるし、強い言い方ができる(まあ仲間8人集めるまで自己投資し続けると考えると間違いなく沼だが)。考えれば考えるほどなんでこういう組織が勢力を拡大できているのかが自明に思えてくる。


長くなってしまったので一言でまとめると、 ”「壁の外に行きたい」と意気込み、調査兵団に入って壁外調査をしに行ったら危うく全滅しかけた” 、といったところだ。

あと、これだけは言える。
知らない人についていくときは出自はちゃんと聞いとけ